マーラー、交響曲第6番イ短調
Gustav Mahler, Symphonie Nr.6 a-moll


1904年完成。1906年初演。約80分。全4楽章。
楽器編成:フルート5(うち2ピッコロ持ち替え)、オーボエ4、イングリッシュホルン、クラリネット4、バス・クラリネット、ファゴット4、コントラファゴット、ホルン8、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ2、大太鼓、小太鼓、鉄琴、木琴、シンバル、トライアングル、タンブリン、タムタム、鈴、ホルツクラッパー、ハープ、チェレスタ2、鞭、ハンマー、弦5部

1.曲の概要 マーラー自身が「悲劇的」という題名を与えたほど、全曲厭世的なそして激しい雰囲気を持っています。しかし、緊張感みなぎる部分がある一方、第3楽章や第1楽章の一部では旋律は緩やかで美しく、その印象の深さは、一度聴けば忘れられないほどです。曲はオーソドックスな4楽章構成で、第1と最終楽章が基本的にソナタ形式に基づくなど、伝統的な形式に従っている部分も多く見られます。しかし、管弦楽編成の大きさは相当なもので、しかも打楽器群ではホルツクラッパー(カウベルのような響き)、鞭、ハンマーなど、個性溢れる打楽器が使われ、非常に現代的な響きを醸し出しています。また、第1楽章から頻繁に登場するティンパニーのリズムが第2、4楽章でも重要な意味を持ち、長調の和音がディミヌエンドしながら短調に移行する独特のモチーフが全曲に渡って何度も登場するなど、マーラーは全曲に強い有機性を与えています。そして、第4楽章のハンマー。自身の将来を暗示するその最後の一撃は何にも増して印象的です。まさに、中期の傑作と言っていいでしょう。


2.各楽章の音の出る解説(文中のリンクはwavファイルへのリンク、カッコ内はwavファイルのサイズ(bite)です。クリックして下さい。なお、音質は著作権への配慮で、ノイズを付加したものです。あしからず・・・

 T.アレグロ・エネルジーコ・マ・ノン・トロッポ
 低音弦の刻むリズムに乗って第一主題(255K)がヴァイオリンで激しく悲劇的に奏されます。後ろでは継続的に低音弦のリズムが刻まれ、トランペットが加わって頂点を築くと、経過部を迎え、トランペットに長調の和音が出るが、一瞬にしてディミヌエンドしながら短調に移行します。また、同時にティンパニーに重要な動機が出ている(長短移行和音とティンパニーの動機(244K)。木管による穏やかな経過部を過ぎると、ヴァイオリンに突然第二主題(503K)が現れます。美しく、しかも情熱的である。この主題が、「アルマの主題」と呼ばれているもので、妻アルマからインプレッションを得て作られたことは良く知られています。第二主題部がひととおり終わると、この提示部は繰り返されるのが一般的です。この提示部の繰り返しはマーラーの交響曲中ではこの第6番でしか聞くことができません。
 展開部はティンパニーの動機から始まり、第一主題中心の激しい部分と第二主題を扱う柔和な部分が現れ、やがて緩やかで神秘的な部分ではホルツクラッパーが聞こえます。その後また第一主題中心に展開され、再現部に入ります。 再現部では第一主題、ティンパニーの動機、第二主題がデフォルメしながらも再現されます。第二主題の再現では、チェレスタの響きが現代的で、印象的です。コーダは最初第一主題に基づき荘厳に始まり、鞭の音(179K)も聞こえますが、途中以降は第二主題に基づいた明るく力強いものとなり、長短移行和音も登場し、最後は華々しく結ばれます。

 U.スケルツォ 第一楽章のティンパニーの動機と強く関連したスケルツォ主題(286K)で始まり、様々な楽器で繰り返されます。トリオ(280K)は、オーボエの古風な旋律ですが、3/8拍子と4/8拍子が入り乱れています。この楽章は単純なスケルツォ形式ではなく、この2つの部分が変形しながら繰り返されます。長短移行和音も何度か登場しています。

 V.アンダンテ・モデラート 極めて美しく、叙情的な楽章です。序奏もなくいきなり息の長い弦の主題(207K)から始まります。やがてホルンにも美しい旋律(313K)が現れ、この2つの部分が絡み合いながらすすんでいきます。中間部には、ホルツクラッパーが聞こえる牧歌的な部分も登場します。楽章全体が一つの息の長い旋律と言ってもいいほど、旋律の美しい楽章です。なお、UとVは、逆の順で演奏されることもあります。これは、マーラー自身が迷っていた選択で、サイモン・ラトル、クラウディ・アバドなどがこの逆バージョンを演奏しています。

 W.フィナーレ 序奏(668K)はヴァイオリンの旋律のあと、第一楽章のティンパニーの動機と長短移行和音がはっきりと現れます。序奏に次いで提示部となり、第一主題(180K)が激しくヴァイオリンに現れます。やがて、ホルンに第二主題(202K)が雄大に現れます。これらの主題を扱いながら序奏の動機を展開し、静かになると、第一主題の展開から、長大な展開部が始まります。徐々に盛り上がり、最初の頂点でハンマーの一撃(184K)が、炸裂します。やがて静まると、第二の展開部を迎えます。鞭も再登場し、ここでも、徐々に盛り上がり、頂点に達すると、第二のハンマーが聞こえます。第三の展開部は最も長大で、最初は長短移行和音から序奏に戻り、その後、第一、第二主題部が展開されます。その後、最後の頂点(388K)を迎えた後、再現部は無く、いきなりコーダを迎えます。コーダの最後には、長短移行和音を伴ったティンパニーの動機によるfff→pppがあり、低音弦のピチカートで静かに全曲を終結します。

3.プライベートルーム この交響曲は、初演の際、一般聴衆にはほとんど理解されなかったものの、シェーンベルクなどの、オーストリアの若い作曲家には多大なインパクトを与えたと言われています。いま、21世紀を迎えてますますこの曲の先進性がわかるような気がします。第三のハンマーは、改訂稿では取り除かれています。マーラー本人でさえ、最終楽章のこの悲劇性には過度のものを感じていたのでしょう。「英雄は敵から三回の攻撃を受け、三回目に木のように倒れてしまう。」という、マーラー本人の注釈も解釈の一助となることでしょう。でも、第三のハンマーを復活させた演奏もあり、非常に面白くなっています。ぜひ、いろんな演奏を聴いてみて下さい。(Minagawa)