マーラー、交響曲第9番ニ長調
Gustav Mahler, Symphonie Nr.9 D-dur


1909年完成。1912年初演。約80分。全4楽章

楽器編成:ピッコロ、フルート4、オーボエ3、イングリッシュホルン、クラリネット4、バス・クラリネット、ファゴット3、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、鉄琴、ハープ2、弦5部

1.曲の概要 曲はオーソドックスな4楽章構成ですが、最終楽章にアダージョが来るなど、伝統的な形式からは遠く離れています。全曲に「死」の影は色濃く、特に最終楽章は「死ぬように」終わるよう指定されています。各楽章は次のようなものです。

2.各楽章の音の出る解説(文中のリンクはwavファイルへのリンク、カッコ内はwavファイルのサイズ(bite)です。クリックして下さい。なお、音質は著作権への配慮で、ノイズを付加したものです。あしからず・・・)

 T.アンダンテ・コモド ブルックナーばりに拡張されたソナタ形式で、3つの主題をもつ。ハープ、ミュートされたトランペットによる短い前奏の後に第2ヴァイオリンによりニ長調で提示されるのが第一主題(368K)。決してメロディックでもリズミックでもなく淡々としているが、深い味わいがあります。その先頭に下降同長音が2回現れています。そして、この音形こそ、大地の歌の第六楽章の最後に何度も繰り返された、「永遠に。(Ewig.)永遠に。・・・・」の旋律そのものなのです。徐々に暗くなり、ニ短調となると、第1ヴァイオリンに悲劇的な第二主題(273K)が奏されます。再び第一、第二主題が再現されてから頂点で、シンバルの一打ちとともに第三主題(251K)が現れます。このリズムもこの曲のあちこちで聴くことができます。展開部はティンパニーによる序奏の動機から始まり、第一主題中心の柔和な部分と第二、第三主題を扱う激しい部分が交互に訪れます。再現部では第一、第二主題のみが再現され、浄化されたやさしいコーダへと導かれます。

 U.ゆるやかなレントラー風のテンポで 3つのレントラー主題を自由な形式で組み合わせたスケルツォ風楽章。第一レントラー(259K)は、第2ヴァイオリンで粗野に現れ、第二レントラーは、活発な第1ヴァイオリンの動機(135K)に始まり、金管群に華やかな動機(216K)も現れます。やがてホルンとヴァイオリンに現れる第三レントラー(345K)はゆっくりと古風な旋律です。これは、明らかに第1楽章の第一主題の回想でしょう。その後第二、第三、第一レントラーの順で展開風に扱われ、再び第二レントラーの展開で頂点となります。その後第一、第三レントラーが回想的に現れ、この楽章をしめくくります。

 V.ロンド・ブルレスケ 極めて反抗的にと記されたロンド。ロンド主題(207K)はトランペットと弦の短い序奏の後に第1ヴァイオリンで激しく現れ、やがて少しおさまって副主題(176K)が提示されます。その後、突然第3交響曲第一楽章の第3主題「パンの主題」(173K)がホルンで回想されるのが印象的です。中間部では、最終楽章に引き継がれる動機(175K)が繰り返されます。最後は行進曲風に激しく粗野に結ばれます。

 W.アダージョ 最終楽章にアダージョを採用したのは第3交響曲以来で、その序奏(466K)は前楽章の中間部の動機に結びついているのみでなく、ブルックナーの第9交響曲の最終(第3)楽章の始まりを連想させます。序奏に次いで、主題(453K)がゆったりと静かに、しかしすごく印象深くヴァイオリンに現れます。やがて、感傷的な副主題(730K)が弦に現れ、これらの主題を扱いながら徐々に高揚して行き、ティンパニー連打の頂点を築いた後一旦おさまります。静かになると、大地の歌の終楽章の小川のせせらぎを回想するようなハープの旋律(291K)が現れます。すると副主題を中心に再び高揚をはじめ、雄大な頂点(738K)を築きます。その後は淡々と静まっていき、諦観をはらんだ結尾へと導かれます。そこでは、「亡き子をしのぶ歌」の第4曲「子供達はちょっと出かけているだけだ」からの旋律(407K)も最小音で回想されます。その後、弦のみの緊張感溢れる極小音でのアンサンブルの後、消え入るように、「死ぬように」終結します。

3.プライベートルーム 交響曲「大地の歌」のところでも触れたように、この交響曲はタイトルのない音楽であり、宿命を感じながらも「第9番」とナンバリングし、結局これが完成した最後の交響曲になってしまうという、まさに「ジンクス」を証明するような結果となってしまったことは、非常に残念でなりません。もしもショスタコーヴィチのように15曲ほど作っていたら、いったいこのあと彼はどんなシンフォニーを書いたでしょうか?しかしマーラーは1911年、51歳の若さでこの世を去ったときには、次の「第10番」さえ、完成されないままでした。しかし、この最後の「第9番」こそが、最も人の(少なくともぼくの)心を打つ作品となっていることも事実であり、やはり天才は最高のものを残して去った・・・と思わずにはいられません。(Minagawa)