ヘラ谷奥(イチゴ谷山)  Mt. Heradani-oku (Mt. Ichigodani)

 この山は、近江−山城国境の北部、三国(さんごく)岳から県境沿いの綾線を南東に進んで経ヶ岳、さらにその先にある山です。ヘラ(平良)は近江側、針畑川沿いの地名なので、「ヘラ谷奥」は近江側の山名、「イチゴ谷山」はイチゴ谷が山城側、久多川へ落ちる谷の名前なので山城側の山名です。比良山系や比良山系とこの山塊の間に挟まる白倉岳と比較しても、訪れる人の少ない静かな山域です。ツキノワグマも多数生息しているようです。そして、大きな魅力は最高点付近のブナ。素晴らしい大木や、ブナ林が迎えてくれます。初秋の一日、ヘラ谷〜ヘラ南谷を詰めて三等三角点のある山頂に立ち、稜線を南下して909mの最高峰に寄ったのち、中峰から東に延びる尾根で下りました。写真タイトル横の番号は、最後のルートマップに対応しています。


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周囲からのヘラ谷奥へ


山行写真
撮影日:2009/9/27 Photo by Minaphm, All Rights Reserved.
撮影機材:ボディー: Pentax K10D、レンズ: SMC Pentax DA18-250mm F3.5



橋のたもとにある登山口標 @
県道783号線が針畑川を渡る橋のたもとに、白い登山口標があります。ここは、三角点から北東に延びる尾根での登山口。
「ヘラ谷奥登山口徒歩二時間三十分」と書かれています。今日はここを過ぎてさらに県道を北へ進み、平良谷橋からヘラ谷を登ります。




平良谷橋 A
県道783号線を左折して西向きの林道に入ります。すぐに針畑川を渡る橋です。



林道分岐 B
林道が左右に分かれます。右はヘラ北谷沿い。ここは、踏み跡は薄いですが、左をとってヘラ南谷沿いに行きます。



アケボノソウ B−C間
林道は杉の大木間を進み、道端にはアケボノソウが咲いていました。



巨大な杉 C
植林のまっすぐな杉が多い中、道端のこの杉は芦生杉の巨木でした。



林道終点 D
苔むした林道はやがて終点を迎えます。この先、はっきりした道はありません。谷は二方に分かれています。
ミゴ谷越えに進むなら、西に登る右の谷がよいようですが、今回は南西に登る左の谷に入っていきました。



谷を進む E
涸れ沢です。かすかな踏み跡があり、それに沿って登っていきます。



谷を進む F
細い谷筋です。苔むして湿った涸れ滝を、左右の土手に登って慎重に越えながら登ってきました。
山頂近くに詰める谷なので、なかなか稜線が見えてきません。




源頭部 G
ようやく源頭が近づき、稜線が見えてきました。しかし、傾斜が半端でなくなり、最後は喘ぎながら稜線へ…



稜線へ H
やっと出ました。滋賀−京都の県境が走る稜線です。いえ、ここは近江−山城の国境と言った方がしっくりきます。



三国岳と経ヶ岳 H−I間
振り返ると、左奥に三国岳、その手前が経ヶ岳です。



小入谷越と百里ヶ岳 H−I間
その右には百里ヶ岳です。



ヘラ谷奥・山頂 I
もう少し登ったら、山頂に着いてしまいました。三等三角点があります。山名票はすべて「イチゴ谷山」の方でした。



三等三角点 I
点名は「久多」だそうです。



中峰山頂の芦生杉 J
三角点の山頂からは最初少し南西に振った方向が主稜線です。すぐ真南〜南東に向きを変えて下ります。
少し登り返すと、白倉岳の中岳にある芦生杉を少し小型にしたような、それでも見事な芦生杉があります。
ここが、中峰の山頂で、ここから、今日の下りの尾根が延びています。でもまずはもう少し稜線を進んで909m峰を目指します。




最高峰近くの大ブナ K
最高峰の909m峰が近づくと、みごとな大ブナが現れ始めます。



ブナの森 K
稜線一帯はブナの森となります。素晴らしい大木も、何本かあります。



最高峰からの眺め〜蓬莱山 K
南東方向には比良連山が連なります。左から、烏谷山、比良岳、打見山、蓬莱山。ひとつ手前は鎌倉山の稜線。



武奈ヶ岳 K
その左には、比良の主峰・武奈ヶ岳です。かつて、向こうからこの山を眺め、登ってみようと思ったものでした。



中峰からの稜線 L
再び、中峰Kに戻って、東南東への尾根を下り始めます。しばらくは赤いプラスチック杭が目印になります。



北東の眺め L
北東が見える場所がありました。サケビ越えがある山塊です。左の峰が正座峰。



北東向きに下る M
東南東への尾根は末端で二つに分かれ、ここは慎重にコンパスを見ながら北東向きの尾根へと入っていきます。しばらく下ると、
左が植林地、右が雑木林といった部分が多くなってきます。あいかわらず赤い杭は健在です。




鉄塔への降り口? N
やがてシャクナゲが出てきます。目の前に二重に巻いた赤テープ。あとで調べるとどうやらここが鉄塔への降り口のようです。
鉄塔からは巡視路があるので、楽に下れるそうです。でも、このときはそうとは気づかずに、まっすぐと下っていきました。




続く、いい尾根道 O
無理をして鉄塔方向へ下ろうかと少し迷いましたが、地形図をよく見ると直進もなかなかいい尾根のようです。
そんなわけで、694m標高点あたりで、ここまできたらもうこの尾根で下ろうと決めました。最後を除いて、傾斜もほどほどのようですし。




最後の急傾斜 P
尾根の状況は予想通りでした。踏み跡はないところが多いですが。最後は杉の植林の急傾斜を降りていきます。もう白っぽい県道が見え始めています。



県道へ Q
Qあたりで、県道に出ました。車をとめた場所からも近くで、なかなかラッキーでした。




山行記録:日時−2009年9月27日、天候−晴れ。10:45 県道沿いの空き地Pに駐車後、県道を北上し、11:10 県道の橋@、11:20 ヘラ谷橋A、11:25 林道分岐B、11:50 林道終点D、12:55 稜線Hに達し、13:10三角点の山頂I着。昼食後、13:25 山頂発、13:40 中峰・山頂J、13:50 最高峰K着、引き返し、14:00 中峰J、14:25 鉄塔分岐?N、15:15 県道Qへ下りつき、15:20 駐車地P着。

 以前、武奈ヶ岳の山頂から北西にあるこの大きな山塊を見て、地図で調べて、これがヘラ谷奥と知ったとき、今度ぜひ登ろうと思ってきましたが、なかなか機会がなく、ようやく今回、登ることができました。ルートはヘラ分校前バス停の先から左の尾根に取り付いて、いきなり三角点山頂に出る尾根、南の二本鉄塔の巡視路から登るルート、ミゴ谷越から山頂へのルート等がガイド本に出ていましたが、結局はどれでもないルートとなりました。林道終点Dからは左(南西向き)の谷に入りましたが、なかなか手強い登りでした。稜線間際の急登Gにも手を焼きました。なにせ、道のない谷で標高約550mの林道終点から、標高840mあたりの稜線まで一気に登るわけですからきついはずで、すんなり標高750m程度のミゴ谷越を目指せばよかったようです^^でもそのぶん、稜線に乗ると、まるで極楽でした。景色を見ながらふらふら歩けば、やがて三角点のある山頂。その後も909m峰あたりまでは素晴らしい稜線が続きます。なんといっても見事なブナの森。大木も見応えがありました。さて、下りのルートですが、最初はガイド本にあるように、鉄塔を経由して下るつもりでした。しかし、この季節、木の葉が青々していて、本にあるようになかなか鉄塔の位置が確認できませんでした。地形と標高から、Nあたりでこの辺だろうという予測はついたのですが、右方向はかなりの急勾配の下り傾斜で、なかなか下っていく勇気はありませんでした。694m標高点あたりまで来てから、地形図とにらめっこし、このままこの尾根で下ることとしました。左手へ何回か誘われる尾根がありましたが、ほぼ北東をコンパスでチェックして誘惑を断ち、Pあたりまではすんなり来ました。もう下に県道が見えてからの下りは急です。でも、下りやすいところを選んで降りれば、やがて県道に飛び出します。
 ほんとうに自然を強く感じる山塊でした。ほかの登山者には一切出会わず、そのかわりに熊のマーキングや巨大なブナ、アシウスギ、トチノキには何回か出くわしました。稜線あたりは、飛行機以外の人工音が全く聞こえない貴重な場所です。こんな場所は、ほんとうに減ってきたんじゃないでしょうか?そのぶん、道標やテープもほとんどありません。1/25000地形図とコンパスは必携です。


ルートマップ


位置


この地図は国土地理院発行の2万5千分の1地形図(久多)をベースに作成いたしました。

図中の番号は上の写真と対応しています。


周囲からのヘラ谷奥

滋賀の山・山姿写真集より


武奈ヶ岳からのヘラ谷奥

武奈ヶ岳山頂から。中央右寄りの平らな峰がヘラ谷奥の最高点909mを持つ峰。右の鋭鋒は892mの三角点峰。
後方には、左から佐々里峠〜小野村割岳〜天狗岳〜三国岳(右端)の連なり。2006年10月21日。




三国岳からのヘラ谷奥

三国岳山頂東から。中央の平らな峰がヘラ谷奥の最高点909mを持つ峰。左端の黒い鋭鋒は892mの三角点峰。
後方には、左から烏谷山1077m、比良岳1051m、打見山1108m、蓬莱山1174m、権現山996m。右方、一つ手前に鎌倉山951m。2008年5月6日。